不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングの違いとは?
2022.09.08不動産クラウドファンディング
はじめに
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の人々から小口の資金を集める手法のことを指します。具体的には以下の3種類に大別されます。
購入型クラウドファンディングとは
製品やサービスの対価として出資を募る形式です。リターンは製品の提供や特典となります。
投資型クラウドファンディングとは
事業に対する出資を募り、将来的に運用益などの金銭的リターンを得る形式です。不動産クラウドファンディングやソーシャルレンディングがこれに該当します(ソーシャルレンディングの中には、不動産事業者等向けに不動産購入資金等を融資するものがあり、これらを「不動産クラウドファンディング」と呼んでいるものもあります)。
寄附型クラウドファンディングとは
返礼を期待せず、単に事業や活動を支援するために出資を募る形式です。
このうち、投資型クラウドファンディングが個人投資家の新たな投資機会として注目を集めています。特に不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングは、少額からの参加が可能であるため人気が高まっています。
両者が注目される背景には、以下の点が挙げられます。
金融資産運用ニーズの高まり
預貯金ではリターンが見込めず、個人投資家は新たな投資先を求めるようになりました。
フィンテック技術の進展
ITの活用によりオンライン上での資金調達が可能になり、手数料が抑えられ小口投資が実現しました。
分散投資ニーズの高まり
リスク分散の観点から、少額から複数の案件に投資できる環境が求められていました。
投資教育ニーズの高まり
資産運用に関する知識の普及により、新しい投資手段への関心が高まっています。
クラウドファンディングの歴史的経緯と普及の背景
クラウドファンディングの概念は2000年代初頭に米国で登場し、インターネットの普及が後押しとなって徐々に広まっていきました。日本でも2010年代に入るとクラウドファンディングサービスが立ち上がり始め、2014年に関連法が整備されたことで一気に普及が進みました。個人投資家のニーズと合致したことで、特に投資型クラウドファンディングが急速に成長しています。
投資型の市場規模の推移と成長性
投資型クラウドファンディングの市場規模は、2016年に約130億円、2021年には約1,700億円と5年間で約13倍に急拡大しています(経済産業省調査)。今後も中間層の資産運用ニーズを背景に、更なる拡大が見込まれており、2027年には約8,000億円の市場になるとの予測もあります。投資型クラウドファンディングは、従来の金融商品に代わる新たな資産運用手段として着実に浸透しつつあります。
このように両者が注目される背景には、個人投資家のニーズと合致していることに加え、クラウドファンディング自体の歴史的な流れと市場の成長性があります。
不動産クラウドファンディングとは
仕組みと特徴
不動産クラウドファンディングは、事業者が不動産特定共同事業法に基づき国土交通省または都道府県の許可を得て運営する投資スキームです。事業者が特定の収益不動産を選定し、インターネット上でその購入資金を一般投資家から募集します。集まった資金で不動産を取得した後は、賃貸や売買による運用を行います。運用から得られた収益から必要経費を差し引いた残りが、投資家への分配金となります。
事業者と投資家の役割
事業者は、適切な不動産の選定、資金調達、賃貸や売買の運営管理、投資家への分配金支払いなどを行う役割を担います。一方、投資家はインターネット上で案件を検討し、希望する物件に出資を行うことができます。不動産の運用管理は事業者が行うため、投資家の手間はかかりません。
法的根拠と規制
不動産クラウドファンディングは、不動産特定共同事業法に基づいて運営されます。事業者は国土交通省または都道府県からの許可を得る必要があり、一定の審査基準を満たす事業者のみが参入可能です。投資家保護のため、各種規制が設けられています。
運用方法
主な運用方法は、稼働中の収益不動産の賃貴や売買です。具体的な投資対象は以下のとおりです。
【賃貸マンション】家賃収入が安定的に見込める最もメジャーな投資対象の一つですが、、地域によってファミリー向け/単身者向けなど入居者の需要が異なります。
【オフィスビル】テナント審査が重要で、賃貸借契約期間が長期となる傾向にあります。
【ホテル】ビジネス・観光地立地が条件となり、運営力次第で賃料収入が大きく変動する可能性があります。
【その他】商業施設、物流施設、学生寮など様々な物件が対象となります。一方で、新規の開発案件(デベロッパー案件)に投資する形態もあります。
リスクとリターン
不動産価格の下落リスクや、空室が発生するリスクがあります。一方で、期待できるリターンは、賃料収入に加え、運用期間終了後の売却益です(売却益が配当されるか否かはファンドにより異なります)。ほぼ全ての事業者が優先劣後構造を導入し、リスクを軽減する措置を講じています。
手数料・税制面
不動産クラウドファンディングの必要経費としては、出資時や分配金受取時に振り込み手数料が想定されます。投資家が得る配当金は、雑所得として計上され、確定申告が必要か否かは投資家により異なります。
このように不動産クラウドファンディングでは、少額から手軽に不動産投資ができるメリットがある一方、不動産に関連するリスクを抱えていることに留意する必要があります。
ソーシャルレンディングとは
仕組みと特徴
ソーシャルレンディングは、インターネット上のプラットフォームを介して、資金需要者への融資を行うクラウドファンディングの一種です。事業者は金融商品取引法と貸金業法に基づく登録を行う必要があります。仕組みとしては、事業者が投資家から資金を募り、選定した資金需要者に対して融資を行います。資金需要者からの返済元利金が投資家への配当金の原資となり、投資家は貸付金の返済利息から諸経費を控除されたものを配当として受け取ることになります。
事業者と投資家の役割
事業者は、適切な融資先の選定、投資家からの資金調達、資金需要者への貸付業務、債権回収業務、投資家への分配金支払いなどを行う役割を担います。審査や債権管理に関する専門性が求められます。一方、投資家はインターネット上で案件を検討し、希望する案件に出資を行うことができます。債権の運用管理は事業者が行うため、投資家の手間はかかりません。
法的根拠と規制
ソーシャルレンディングは、金融商品取引法と貸金業法に基づいて運営されます。事業者は両法に基づく登録を行う必要があり、一定の審査基準を満たす事業者のみが参入可能です。投資家保護のための規制も設けられています。
運用方法
主な運用方法は、事業者が選定した以下のような国内外の資金需要者への融資です。
【国内中小企業向け】運転資金、設備投資資金など
【海外企業向け】新興国における新規事業資金など
貸付対象別の特徴
国内中小企業向けは財務データなどから与信審査がある程度可能です。海外企業向けは高リスク高リターンの傾向があり、現地実態の確認も含めた様々な面での調査が重要となります。
与信審査と債権回収
与信審査では、資金需要者の財務データ、信用スコア、事業計画の妥当性などを多角的に審査します。債権回収が遅延した場合は、法的手段を講じることもあります。
このようにソーシャルレンディングでは、比較的高い金利収入が期待できる反面、資金需要者の属性によってリスクの度合いも大きく異なります。投資に際してはそうしたリスクを十分に理解しておく必要があります。
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングの違い
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングは、ともにインターネット上で小口投資を募る点では共通していますが、その仕組みや特徴は大きく異なります。
配当原資の違い
不動産クラウドファンディングでは、投資家への配当原資は不動産の賃料収入や売却益となります。一方、ソーシャルレンディングでは、資金需要者への貸付金の金利収入が配当原資となります。
リスク要因の違い
不動産クラウドファンディングのリスクは主に不動産価格の下落や空室リスクです。ソーシャルレンディングのリスクは主に貸付先の債務不履行です。
リスクリターン特性の比較
不動産クラウドファンディングでは、賃料収入が比較的安定したキャッシュフローを生み出す一方、物件の売却時に大きな値上がり益を得られる可能性があります(売却益が配当されるか否かはファンドにより異なります)。ソーシャルレンディングでは、金利収入は安定的ですが、延滞・債務不履行リスクが常に付きまといます。
優先劣後構造の有無
不動産クラウドファンディングでは優先劣後構造を導入し、リスクを軽減する例がほとんどです。ソーシャルレンディングでは優先劣後構造の導入事例はありません。
根拠法令の違い
不動産クラウドファンディングは不動産特定共同事業法、ソーシャルレンディングは金融商品取引法と貸金業法に基づいて行われます。
規制当局の監督方針の違い
不動産クラウドファンディングは国土交通省が、ソーシャルレンディングは金融庁がそれぞれ所管しており、投資家保護の観点から異なる規制・監督が行われています。
投資対象の違い
不動産クラウドファンディングでは不動産物件が投資対象となりますが、ソーシャルレンディングでは資金需要者への融資が投資対象となります。
このように両者には大きな違いがあり、投資に際してはそれぞれの特徴を理解しておく必要があります。
比較検討のポイント
不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングのどちらに投資するかを検討する際のポイントは以下のようになります。
リスク許容度
不動産クラウドファンディングでは不動産価格下落リスクや空室リスクがあり、ソーシャルレンディングでは資金需要者の債務不履行リスクがあります。自身のリスク許容度に合わせて選択する必要があります。
投資目的
長期的な資産形成を目指すのか、それとも中短期的な運用益の確保が目的なのかによっても、適した投資手段は異なってきます。
分散投資のあり方
不動産クラウドファンディングでは投資対象のエリアを分散することができ、ソーシャルレンディングでは融資先の属性を分散できます。投資家は自身の分散投資ニーズに合わせて選択できます。
メリット・デメリットの違い
不動産クラウドファンディング、ソーシャルレンディングともに、比較的少額からの投資が可能である点が共通のメリットとして挙げられます。また、不動産クラウドファンディングでは、物件の選定力や運用力が重要となり、それらを専門性の高い事業者に任せられるメリットが、ソーシャルレンディングでは、融資先の審査力と債権回収力が重要となり、それらを事業者に任せられるメリットがあります。共通のデメリットとしては、運用期間中の解約が基本的には認められていないこと等があり、また、リスクの種類も両者により異なります。
このように両者には一長一短があり、自身の投資スタンスに合わせて慎重に比較検討する必要があります。
投資に向けた実務的な手続き
- 事業者の選定:まずは投資を行う事業者を選定する必要があります。事業者については、運営体制、過去の実績、手数料水準などを確認し、自身の投資方針に合致するかどうかを慎重に検討します。
- 口座開設:事業者のプラットフォームに投資家口座を開設します。この際、本人確認書類の提出などが求められます。
- 案件の検討・出資:事業者のウェブサイトで公開されている投資案件を検討し、希望の案件に出資を行います。出資の際は、リスク内容を十分に確認しておくことが重要です。
- 分配金の受取り:事業者から定期的に分配金が現金で支払われます。
- 税務上の手続き:分配金や売却益については、確定申告を行い、所得税などを支払う義務があります(確定申告の要否は投資家により異なります)。事業者から支払われる分配金には源泉徴収がされていることがほとんどです。
このように一定の投資手続きが必要になりますが、インターネット上で完結するケースが多く、比較的簡便に投資を行えるメリットがあります。分配金の源泉徴収の有無には注意が必要です。
クラウドファンディングの展望
クラウドファンディングは近年急速に市場が拡大していますが、今後更なる成長が見込まれています。
- 市場規模の拡大:投資型クラウドファンディングの市場規模は、2021年には約1,700億円と推計されていますが、2027年には約8,000億円を超えると予測されています。中間層を中心に資産運用ニーズが高まることから、今後も市場は拡大基調が続くとみられています。
- 投資対象の多様化:現状では主に不動産や資金需要者向け融資が中心ですが、将来的には株式やファンド、知的財産権、芸術品などへと投資対象が広がっていく可能性があります。投資家のニーズに合わせて、より多様な選択肢が用意されることでしょう。
- 仮想通貨との連携:ブロックチェーン技術の発達に伴い、仮想通貨決済との連携が進むと考えられます。投資金の出資や分配金の支払いなどで、仮想通貨が活用されるケースが増えてくるでしょう。
- 国を超えた資金調達:インターネットの普及で国境を越えた資金調達が可能になり、新興国を含む海外への投資が一層広がっていく可能性があります。
- 規制強化の動き:一方で、投資家保護の観点から、規制当局による監視は今後一層強化されると予想されます。事業者にはより適切な運営が求めらていくことになるでしょう。
このようにクラウドファンディングは今後も成長が見込まれる分野ですが、新たな課題が発生することも予想されます。投資家、事業者双方にとって、課題を解決しながら更なる発展していくことが期待されます。
おわりに
本記事では、投資型クラウドファンディングの中でも注目されている不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングについて、その仕組みや特徴、相違点を解説してきました。
不動産クラウドファンディングでは、事業者が収益不動産を購入し、その賃料収入や売却益を投資家に還元します。一方のソーシャルレンディングでは、事業者が投資家から集めた資金を資金需要者に融資し、その金利収入を投資家に分配します。
両者ともインターネット上で小口投資が可能というメリットはありますが、配当原資、リスク要因、優先劣後構造の有無、根拠法令、投資対象などに大きな違いがあります。不動産クラウドファンディングでは不動産価格下落リスクや空室リスク、ソーシャルレンディングでは借り手の債務不履行リスクが主要なリスク要因となります。
リスクリターン特性も異なり、不動産クラウドファンディングでは比較的安定したキャッシュフローが期待できる一方、物件売却時の値上がり益獲得も狙える可能性もあります。ソーシャルレンディングでは安定的な金利収入が見込めますが、延滞リスクも存在します。
このように両者には長所短所があり、投資に際してはそれぞれの特徴を十分理解しておく必要があります。リスク許容度、投資目的、分散投資のあり方、手数料水準、流動性の違いなど、様々な観点から自身の投資スタンスに合わせて比較検討することが重要です。
いずれの場合も、期待リターンに見合うリスクが存在することは確かです。想定外のリスク顕在化の可能性も念頭に置き、慎重な投資判断を心がける必要があるでしょう。
本記事のポイントのまとめ
これまでの解説を振り返ると、不動産クラウドファンディングとソーシャルレンディングには、以下の主な違いがあることがわかります。
・配当原資の違い(不動産収益か融資金利収入)
・リスク要因の違い(不動産価格下落リスクか債務不履行リスク)
・優先劣後構造の有無
・根拠法令の違い(不動産特定共同事業法か金融商品取引法・貸金業法)
・投資対象の違い(不動産物件か資金需要者への融資)
投資を行う際は、こうした違いを理解した上で、自身のリスク許容度や投資目的、分散投資のニーズに合わせて、両者を比較検討することが何より重要です。
投資を行う上での留意点とアドバイス
クラウドファンディングへの投資を検討する際の留意点とアドバイスは以下の通りです。
・投資可能資金の計画的な準備
生活費や緊急時の費用を確保した上で、投資に回せる資金を計画的に準備することが重要です。無理のない範囲で投資を始めましょう。
・分散投資の重要性
一つの案件に集中投資するとリスクが高くなります。投資額に応じて、複数の案件に分散して投資するようにしましょう。リスク分散が資産形成の鍵となります。
・事業者の選定と運営体制の確認
投資を行う事業者の選定は極めて重要です。事業者の運営体制や過去の実績、専門性などを確認し、信頼できる事業者を選びましょう。
・継続的な投資に関する学習の必要性
投資に関する知識は日々進化しています。最新の動向を常に把握し、投資手法の見直しを行うなど、継続的な学習に努めることが求められます。
このように、慎重な事前準備と、継続的な学習姿勢が投資の成否を分けます。リスクをゼロにすることはできませんが、適切なリスク管理を行えば、機会損失を最小限に抑えつつ、着実にリターンを積み上げていくことが可能です。
クラウドファンディングの仕組みやリスクについて、知識を深めた上で投資を始めることをお勧めします。投資型クラウドファンディングには一定のリスクがありますが、適切にリスクを管理すれば、資産形成の有力な手段となり得るでしょう。
TECROWD運営事務局
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